2023(令和5)年、穂高岳山荘は100周年を迎えました。
2023年シーズンに山小屋ご宿泊の方へは、こちらの記念品を配布いたしました。
ピンバッヂとしても、穴にヒモや鎖を通してキーホルダーやペンダントのようにしても、留め金を外し玄関などに立てて飾っていただいても良いように、デザインにこだわり作りました。
●工場のかたも、「こんなのは初めて作りました」という、とてもめずらしいキリヌキデザイン。
強度保持の為、ピンが2箇所につきました。
●100年前から変わらない、穂高の稜線。そこへ赤い屋根の穂高岳山荘を小さくあしらいました。
●表には文字を入れず、裏にだけ「穂高岳山荘百周年」の文字を刻印しました。
こちらの100周年記念メインビジュアルにつきましては、デザイナーの真田緑さん(@midorisanada)に作成していただきました。
歩荷時代からヘリコプター時代へ、そして変わらない奥穂高岳と草花や生き物たち、時代を超えて山を愛する登山者たちを盛り込みました。
穂高岳山荘100周年記念出版として、穂高岳山荘二代目今田英雄の時代をえがいた書籍「穂高に遊ぶ -穂高岳山荘二代目主人今田英雄の経営哲学-」が、谷山宏典さんの執筆にて、山と溪谷社様より発刊されました。
著者 谷山 宏典著
発売日 2023.06.09発売
販売価格 2,200円(税込)
購入はこちらから。
※公式オンラインストアでは、公式購入特典がございます。また、百周年記念として書籍のみ購入の場合送料無料です。
穂高岳山荘100周年、ならびに「穂高に遊ぶ 穂高岳山荘二代目今田英雄の経営哲学」(谷山宏典/山と溪谷社)の発売を記念し、テーマ「わたしと穂高岳山荘」文字数を600文字〜2000文字として、エッセイを皆様から公募いたしました。
「わたしと穂高岳山荘」エッセイ公募の審査結果の発表ページはこちら
皆様にあたたかい言葉をいただき、共に素敵な100周年を迎えることができたことを嬉しく思っております。本当にありがとうございました。
101年目からも、穂高岳山荘はスタッフ一同頑張って参ります。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
北アルプスの歴史の記録には、1925年に穂高岳山荘が開業という記述が多々ある。今年は2023年。100周年とするには計算がおかしくないだろうか?
実は、創業者の今田重太郎が「創業10周年」としたのが1933年であり、以来創業記念は西暦で3の付く年に行われている。つまり重太郎本人は1923年を創始の年と認識していることになる。
そのため、本年2023年が穂高岳山荘100周年記念の年となる。
今田重太郎は、大正十一年から当時の殺生小屋の主人である中村喜代三郎氏(現・蝶ヶ岳ヒュッテ主人、中村梢氏の曽祖父)に頼まれ槍穂方面のガイドとして山案内をしていた。
その中で、稜線の小屋の必要性を感じるある日を迎えた。
「大正十二年の夏のことだった。穂高縦走のお客様を案内して、槍から北穂に向かったが、途中大変な雷雨に見舞われ、進むことも退くこともできない釘づけの状態になったことがある。何とか涸沢の岩小屋に避難しようと心はあせるが、お客様は寒気と疲労に弱り切っている。」
「この時ぐらい、強く避難小屋の必要を感じたことはなかった。幸いお客様も、一夜の休養で元気を取り戻してことなきを得た。」
「無事、縦走を終えて殺生小屋に帰ると、さっそく主人の中村さんに小屋建設の相談をし、快諾を得たので、それから何回か現地調査をした結果、今の場所──”白出のコル”に白羽の矢を立てたわけである。」*1
こうして、穂高小屋の建設が始まったのである。
このとき、最初の1年は自分のための石室を白出のコル(現在、山荘の建つ場所)の岐阜県側に作り、そこに住み込みながら建築計画を行ったそうだ。そして翌年には、岐阜県側に小さな小屋を建築。しかし、県境であるために長野県側・岐阜県側の許可がなかなか揃わず、実際に建築と開業の許可が出て正式に宿泊営業を開始したのが1925年であった。
つまり、重太郎にとっては「自分が山小屋づくりを始めた1923年」こそが、創業の年だったのであろう。
重太郎はこのように記している。
「大正十三年に長野県側に石室を造り、まず穂高の一点に腰をおろした。翌十四年には岐阜県側にささやかな穂高小屋を完成し、第二年目を迎えた。その翌年十五年の三月になって、ようやく長野県側の建築許可が松本営林署から届いた(後略)」*2
こういったわけで、穂高岳山荘では「2023年が創業100周年」となっている。
何もない場所へ山小屋を建てることを決意した重太郎、すべて人力で材木や食料を担いでいた100年前に思いを馳せ、変わらない穂高の峰々と自然と人々の笑顔とを全身で感じながら、これから先の100年へもあたたかな希望を寄せる。
そんな100周年の年であって欲しいと願っている。
穂高岳山荘 今田恵
*1,*2ともに「穂高に生きる〜五十年の回想記」今田重太郎・著/山と溪谷社・ヤマケイ文庫2022初版(底本:1973初版) より
100周年という節目を皆さまと迎えることができて嬉しく思います。
ぜひ、2022年再出版の「穂高に生きる」、また2023年出版の書籍「穂高に遊ぶ」もお読みいただき、穂高岳山荘、そしてこの山域の過去と現在また未来へと思いを馳せていただければと思います。